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フランスの審判員制度
フランスの審判員制度は、まるでヨーロッパ中世職人の徒弟制度に似ている。
審判員になることを希望すると、まず所属するクラブに届け出て、クラブの中で見習いをする。最低でも4年間という長い見習い期間である。
毎日大会が有るわけではないので、実際に審判員の作業に携わる回数がそれほど多いわけではないだろう。しかし、それでも4年間は長いように思える。
その後、クラブの推薦を受けて日本の地方単位に相当するリーグの審判員試験を受検する。
1度で合格すればまだしも、1回目の受検に失敗すると、再受検ができるが、もし2回目にも失敗すれば、審判員不適格者ということになって、もう審判員になることはできないという。
審判員不適格者とは、いったいどんな人物のことを指すのか。
リーグ審判員の経験3年で、フランス国内に通用する、つまり、ナショナルの審判員資格が受検できる。この受検も2回が限度で、2回失敗したら後がない。
さらに3年の経験で、インターナショナルの審判員資格が受験できる。
最高位の審判員になるには、なんと10年以上の歳月を必要とする。しかも合格するものは少ない。
したがって、3万人、5万人と登録者がいるクラブでも、インターナショナル審判員は、2名か3名という人数でしか存在しない。
審判員の試験内容に関心を持って、インターナショナルの審判員に、受検のための参考書はあるのかと聞いたところ「何もない。この競技規則書だけさ」という。問題はほとんど論文形式で出題されるらしい。
広い会場の中で、審判員の姿をすぐに発見するのは難しい。
審判員を必要とする状況が生じたとき、「審判員!(アルビートル!)」と大声で叫ぶ声がする。2、3分で現れれば早い方で、探しまわったり、ときには本部席まで行って、放送で呼び出してもらうようなことさえある。「審判員○○番テランへ」という放送が入ったりする。
かといって、審判員は競技の進行中はそれほど忙しくはない。悠然とかまえて、ぶらぶら歩いている。審判員に質問をするには良い機会である。
いろいろな審判員に接触していて感じることは、おだやかな態度と親切さである。ナショナルやインターナショナルの審判員は、50歳近い年齢から、60歳代といった人が多いが、自信に満ちた態度には風格がある。
胸に必ず資格証を付けている。そして、測定器具類を入れた鞄を持っている。
鞄の中身に興味を持って、何人かに見せてもらった。 共通した持ち物は、メジャーであるが、2m、5m、10m、20mのうち3種類は持っている。
パス類は、機械工具と同じもので大小2個は持っている。
日本の審判員に要求されること
1)当然のこととして『ペタンク競技規則』の完全な理解である。
競技規則を丸暗記する必要は無い。ペタンクを理解し、判定に必要となることが競技規則書と関連して、選手に説明できれば良いのである。
何年も前のことだが、日本で、審判員が同距離の問題で裁定するとき、競技規則を提示することもなく「第9条に書いてある。」と、あたまごなしにいっているのを目撃したことがある。これは第29条の記憶違いということになる。往々にして日本の審判員は相手に優位さを誇示するように、このような言い方をすることがある。これは大変な誤りである。もし選手が家に帰ってからでも競技規則の第9条を開いて読んだときから、その審判員を信頼しなくなるだろう。
審判員の裁定は、違反をしている選手の競技規則上の誤解を解けばすむことである。
2)ペタンクでのトラブルとは何かを知る
トラブルは、生じたとき双方がいくらかでも興奮しているものである。それを裁く審判員は、両エキップの選手をさらに興奮させるような態度は好ましいことでない。
審判員は、あくまでも冷静にというのが基本である。
フランスでの競技は、賞金がかかっているため、その判定次第では、数百フランが消えてしまうことさえある。したがって選手やときには観客までも興奮する。
選手が興奮した態度をあからさまに出せば、マナーの悪い選手として、相手エキップは審判員にアピールしてくることもあるのだ。
アピールは審判員にするもので、相手選手にするものではない。
そんな興奮状態を許容のぎりぎりのところまで示しつつ競技をする選手がフランスには結構いる。マナーが分かっていない連中だ。
そんな態度が、表面的には格好良く見えたりするので、ペタンクではそれが許される行為と受け取って、真似をしたりする選手が日本で出始めている。これは厳しく注意しなければいけないことだ。
3)マナーを裁くことの難しさを知る
マナーについては『ペタンク競技規則』には明確に記されてはいない。
しかし、これは競技を監督する審判員にとっては大変重要なことである。
日本流にいえば競技マナーは競技作法であるから『ペタンク競技規則』にすべてが書かれていても不思議ではないと考えられるが、もし書かれていることだけが対象になって、書かれていないことは問題にならないとするなら、ほかに、いくらでも難しい問題が生じ得る。それがペタンクなのだ。具体的に、しばしば問題になる例について、後ほど、いくつかの例で触れる。
4) 競技内容と技術は必ずしも一致しないことに留意する
ティールはポンポン当てるし、寄せも巧いがレベルの低い競技がある。
投球円は、ほとんど無視したような位置に立つ。
着地点を、地ならし同然のならし方をする。
邪魔な小石などを平気で、け飛ばしてしまう。
相手が投球動作に入っているのに、声高に話していたり、動いていたりする。
投球する瞬間に突然動いたりする。
選手が、立つ位置を守らないで、相手エキップが投球するすぐ横に立っていたりする。
クラブの仲間まで使って、テランの外から相手エキップにプレッシャーをかけるような行為をする。
テランが設営されていない競技では選手と同じ位置で観戦する仲間がいる。
このような行為は些細なこととして特に注意しないで、相手エキップ並に自分たちもする選手がいる。これも重要な問題である。
このような誤りを平気で犯す選手ばかりになれば、その地域のペタンクのレベルは間違いなく低下する。つまり荒れたペタンクをしていることになる。
5)審判員がやたら細かいことに口を出したらどうなるか
サークルに靴のつま先がわずかに2センチほどかかっている。
ビュットから1m90cmぐらいの位置に立っている。
投球円を52cmぐらいに描いている。
投球円の周辺の投球円をテランの地ならしのように消している。
ビュットにマーキングしていない。
投球したときに力が入った足が投球円にかかった。それを違反だと主張したエキップを支持する。
などなど無数にあるが、この程度のことまでを違反しているとして、選手からアピールがある前に、審判員として、いちいち口を出したり、指導したりするべきことではない。
そういった審判員や指導員が多い地方の選手はやたら細かいことを見ている。見ているだけならまだしも、細かいことをくどくどと物知り顔に相手エキップに注意したりする。そんな行為も、相手にプレッシャーを与えている行為だと認識できなければならない。
これだけ書けば、フランスの審判員が悠然と会場を見回っていて、審判員(アルビートル)の声がかかる以外は自分から進んで注意しない姿を思い浮かべてもらえるだろうか。
しかし、審判員は見ているのである。長年の徒弟制度のような見習い期間を経て、上級審判員になった経験と感は、会場を歩けば、選手の動きや観客のどよめきから、正しくペタンクが行われているのかが分かるのだ。
馴れ合いの競技や、不可解な動きをするブールや、マナーの悪い観客の存在まで、審判員は見ている。いや、見ていなければならない。そして、目に余る行為だけは的確に注意している。
審判員が所持する用具の中にホイッスルがあったが、私は、この音を聞いたことは一度もない。
前に、審判員の仕事として重要なことで、測定法が有ると書いた。
日本では、「ペタンクの審判員の仕事は、遠い近いを測ることだけ」と言う方がある。
審判法の講習会を開くといっても「どうしてそんな講習が必要なのか」と不思議に思う方がいる。
十分に審判員制度が機能していない日本の現状では、あるいはもっともなことかも知れない。また、安易に与えた審判員資格なら、審判員以上に競技規則をわきまえた選手が存在するから、充分な知識のない審判員に判定を依頼するより選手できめようということになったりする。
測定は、0.1mmから、20mまでの範囲で行われると考えてよい。
現在の『ペタンク競技規則』に変わる以前は30mまでだった。
30mが20mになって審判員の測定用具は20mまでの測定具で済むようになった。
厳密にいうとビュットが20mを越えているかいないか。10mを越えているかいないか。6m以上の位置にあるか無いか。であるので、継ぎ足して測る、つまり20mを10mのメジャーで2回で測るような測定はしないほうがベターである。
審判員の判定には従うことになっているから、そんな距離は大体で判定すればよいと考えられるが、審判員としては、測定結果が信頼される測定は直線的測定であって、くの字にメジャーを使ったなどと、批判が後に残るような判定をさける心掛けが大切である。
短い距離の0.1mmについては、本当は0.01とか0.05を目指すことがベターであるが、視覚的には0.1mmで両エキップを納得させることは可能である。
フランスの本だったか新聞だったか漫画で見たような気がするが、橋脚のような構造で水平にスライドする顕微鏡を2個付けたような測定器が出現するかも知れない。
ビュットに両エキップのブールが密着した同距離以外の離れた位置の同距離は、まず有りえないと思っていたが、そのような判定をせざるを得ない体験を2度ほどした。厳密な測定機器なら、どちらかを近いと判定できるだろう。その判定の1点で賞金が1万フランになるとか、世界選手権者になるのであれば、極限的な測定が要求されるかも知れない。
ペタンクを始めたころ、ラ・マルセイエーズ大会で、30cmほど離れた同距離状態になり、審判員に判定を依頼したことが有ったが、ビュットの塗料が剥げた分だけ私の球が遠かった。こんな経験がペタンクの測定に関心を抱かせることになったから面白い。
その時、審判員が使用した器具は手作りで折り畳めるパスであって、さすが本場フランスの審判員だと感心した。
日本で実際にあった問題例
1)日本の全国規模の大会での例
両エキップの選手が繰り返し測定して判断できず、審判員に依頼したところ、出てきた審判員が測定もしないで「はいこっち」と指さして裁定したのには仰天した。これには選手たちもあきれたが、審判の判定には従わざるを得ないということでその場は収まった。これは、審判員としては、あるまじき裁定態度である。
フランスでこのような判定をしたらどうなるか。選手や観客のごうごうたる非難の中、競技委員会に報告され、組織の懲罰委員会にかけられて、審判員資格剥奪にもなりかねない。
選手が測定した結果を裁定するときは、選手が使った測定器より精度の高い測定器を使用して測定するぐらいの注意が必要である。同じ程度の測定器ならば、審判員らしく膝をついて安定した姿勢で、測定器の一端をボールに当てる高さや、ビュットに持ってゆく高さ、距離を見切る目の位置などに細心の心配りをする必要がある。
審判員に定年はないが、喫煙や飲酒やその他健康上の理由で、手が震えたりする人には審判員は適さないといえる。参考までに、フランスでは審判員資格の取得は60歳までである。60歳以前に取得したものは継続できる。
審判員の態度で問題となる例
2)大規模な別の全国規模大会でのこと
投球しようとしたら、相手のエキップがビュット直ぐ脇の1メートル半ぐらいに立っている。「もう少し離れて欲しい」とアピールしたら、「私たちはビュット横にいるように講習を受けた」と答えるだけで動かない。「2メートル以上離れてください」といっても離れない。審判員を呼んだら審判員の判定が「両エキップでよく話し合ってください」であったという。この判定はいかにも民主的に思える。しかし、審判員の判定としては全く不適当である。おそらく2メートル以上であったか以下であったかがもう確認できないその場の状況であったと思うが、ビュットからどの程度距離を置いていたかは再現させることはできよう。その位置が間違った位置であれば警告を与えることはできよう。競技する当事者間で考えが違っているのであるから、審判員はいずれが正しいか明確に裁定をしなくてはならない。これはマナーを悪用している例である。下がって欲しいといわれれば下がるべきである。
3)地方大会での例
トーナメントに入って準々決勝のとき、対戦していた相手は地元のエキップであって、地元不利な状況であったという。地元の、競技が終わった選手がテランを取り巻いていて、あまり応援のマナーが良い状況ではなかった。投球サークルに入って精神の集中をしたそのとき、本部の女子役員が前の試合の対戦カードを持ってテランに飛び込んでくるなり「あんたたち、こんな点の付け方したら分かれせんがねー!」と叫ぶようにいったという。投球しようとしていた女子選手は完全に意地悪されていると感じて泣きだしてしまったという。
得点の付け方は正しかった。その地元での付け方が略式の記入法であった。「もうその地方大会には絶対に参加しない」という。
この例では三つの問題点がある。一つは選手がプレシャーに感ずるほどのことを、選手自身で審判員や応援する観客にアピールできなかったこと。一つは、審判員も地元のエキップを応援する気持ちが働いていて、テラン外の応援者に注意をうながせなかったこと。もう一つは、役員のマナーで、競技中に衆人監視の中のテランに入り込んでまで、いうべきことであるかどうかを認識できなかったことにある。
審判員の判定には従わなければならないという『ペタンク競技規則』の条項は、審判員が正当に任務をこなしていることを前提として存在しているのである。
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